コラム - 院長より

 

Vol.22 2005/03/15

あるお年寄 訪問診療で思ったこと(2)

 私が月に何回か訪問診療で伺う80歳代の男性がおられます。もともと高血圧、糖尿病があり、脳梗塞を患われてから私の在宅診療が始まりました。この方は、大正の気骨を十分感じる紳士、言葉を変えれば、腰が少し曲がった頑固オヤジを地でいっている感じです。奥様と二人住まいで、酒もってこ~い! 飯はまだかあ!と怒鳴ってしまう、勝手気ままに生きているなというのが私の第一印象でした。私が伺っても、よお~!、ある時は、なんにも用はないよ、今日は!? と言ってしまう始末でした。そんな状態のため、何度言っても私の処方薬はまともに服薬されず、体調も右肩下がりか水平状態の維持がやっとでした。

 しかしこの方は、剣道がお好きとのことで私も剣道をやっていたことを話すと、手合わせを頼もうと言われ、ある日、道に出て竹刀で切り返しを5分ほど一緒にしました。それ以来、私が伺うたびに晴れた日には切り返しをすることを楽しみにされるようになり、私もこの方の診療のメニューに切り返しを入れました。後に奥様から伺い驚いたことですが、竹刀を持ちはじめてから、生活がいきいきとし始め、怒鳴ることが減ってきたとのことでした。

 人を治すために我々医師は、検査を行い薬を使い、時には手術を施します。でも私はこのご老人と接しているうちに、我々の持つ医術は人と接する一つの方法であり、それは一緒に体を動かして何かをしたり、お話したり、歌を歌って気持ちを癒すのと同列のものではないかと思うようになりました。人を癒すために、一緒に怒り、涙し、励まし続けたという赤ひげ医師の目指したものが少しだけ理解できたような気がしました。私も近い将来、お寺の中にでも診療所を開き、最新式の西洋医学と東洋医学を施す医療をする一方で、境内で竹刀をふり、境内の畑を共に耕せるような、全人的に人と接する場を作ってみたいと思います。これを夢・幻に終わらせたくないものです。

 このご老人は今もご健在であり、私にパワーを下さってくれている方です。