コラム - 院長より

 

Vol.28 2005/09/15

訪問診療で思ったこと(3)

 百二歳の大往生

 4年前から、在宅診療を行っている、身寄りのないおじいちゃんがおられました。少しお耳が遠く、脳の活動も年齢なりの低下がありました。でもお住まいとなっているホームに伺うたびに、私の顔を見るとニコッとされ、私が「いい血圧ですね」と申しあげると、大きな声でハッキリと、「先生 ありがとうございました。ありがとうございました!」といってくれました。今年の初夏の頃、体調がすぐれずある総合病院に検査入院したところ末期がんであることが判明しました。それからは日が堕ちるような、あっという間の経過をたどられました。ホームに最後に診療に行った晩、「わかる?」と私が聞いた時、もうろうとした意識の中でも、わずかながらいつもの表情に戻り、うんとうなずいてくれました。旅立ちはその6時間後でした。静かに眠るような百二歳のお顔でした。

 この方は、身寄りのないと書きましたが、音信のないれっきとしたご家族がいたとのことでした。しかしホームから連絡しても最後まで、どなたもお見えにならなかったと聞いています。最期まで何晩もいく晩も睡眠時間を削って、家族同様の、それ以上の面倒をみてこられた、ひ孫くらいの年齢にあたる、赤の他人のホームの方が流した涙が美しく見えました。ここまで親身になってくださる方が近くにいてくれて、このおじいちゃんはきっと孤独ではなかったと思います。

 命をなんとも思わなくなっている人が見受けられるこのごろですが、ただ生きるのではなく、生き抜くことが大切だと思います。私はお焼香をしながら、「人生を全うされ、おめでとうございます!」とつぶやいていました。