コラム - 院長より

 

Vol.45 2007/02/15

歳をとる。たおやかに、たおやかに

 新年を迎えたばかりと思っておりましたのに、いつの間にか気がつけば寒梅が綺麗に花を咲かせてくれていました。毎週在宅診療で伺うお宅への道すがら、朝のすがすがしい空気の中で、今年もこの時がきたよ、と私に語りかけてくれているようでした。この寒梅を見ると、その患者さんとの10数年来のことが頭に浮かんできます。

 血圧が高く頭が重いとおっしゃって初めて、労災病院の私の外来におみえになられた日。内服薬が効を奏して楽になったと笑顔を見せて通院されていた日。意識を失って搬送され、頭の緊急手術を行った日。その後、半身不随になられてもまた私のクリニックまで来院され、「この日を待っていたんだ。」とおっしゃった日。そして今は違うご病気で寝たきりになられ在宅診療を受けていらっしゃる。おそらく、これからもこの患者さんとは長く付き合うことになると思います。

 時を経て、私たちは歳をとります。最近では平均寿命が延び、昔の60歳、70歳は今の70歳、80歳といわれるようになりました。しかし肉体年齢は伸びても、精神年齢や“常識年齢"はむしろ幼若化しているように思えてなりません。自転車で平気に右側を走る大人。相手を思いやる言動を忘れ家庭を崩壊させてしまう大人。通院すれば安いのに往診料は高いと主張するわがままな大人。近隣の方の往診時には駐車に抗議しながら自分の家族の往診時には道のどこに駐車してもいいと言う身勝手な大人。

 我々は歳をとって何を後進に残していかなくてはならないのでしょうか?一番大切なことは、社会生活をしていく上での常識ではないかと思います。大人が乱れていては、それを見ている子供が、「なんだ、これでいいのだ!」と思ってしまいます。今の社会問題となっているいじめや登校拒否も、われわれ大人社会の行動が原因になって子供の心に歪みを生じさせているのではないでしょうか? たおやかに歳をとること、それは威厳のある頑固親父と鬼ばばの裏腹なのかもしれません。