コラム - 院長より

 

Vol.48 2007/05/10

頂上と山間の谷 ~ がんばる時と立ちどまる時 ~

 イギリスに留学していた頃、スイスでの学会の折、足を伸ばしてヨーロッパ最高峰のユングフラウヨッホというアルプスの山に登山電車で(歩きではありませんでした!)登ったことがありました。途中には、アルプスのハイジがのびのびと駆け巡った舞台といわれるグリンデルバルトという山間となる高原がありました。季節が丁度、夏ということもあり、さわやかなアルプスの風が吹き抜ける中、高原の美しい草花が咲き誇っていました。ユングフラウヨッホの山頂を望む展望台の近くには、孤高の人の著者で、私と同郷の信州諏訪出身の作家、新田次郎氏の記念碑に偶然遭遇しました。すぐ近くには、ユングフラウヨッホのいただきから続く大氷河が、悠久の時を越えて横たわっていました。新田氏はこのアルプスの山頂と山あいの高原を渉猟する主人公にどんな思いをはせたのでしょう?

 先日、テレビでいいお話をしていました。人生には良い時も悪い時もあります。良い時は、丁度、山の頂を目指して一生懸命に頑張って、競争して、頂上に登り立った時と同じ。なんともいえない爽快感、満足感、優越感を味わえるでしょう。でも一度頂点に立った後はそこを維持することが難しい。人生の良い時とは、山頂で記念写真を撮っている時のようなもの。次にくるのは必ず下り坂。でもね、はるか下界にある山間の谷もいいものです。澄んだ水が流れ、湖になり、気候も山頂よりは穏やかなせいか、キレイで可憐な花が咲いています。穏やかな人の笑顔だってあります。人生には一生懸命頑張らなければいけない時もありますが、一度満足したら後はゆったりとした時を楽しんで過ごすことが必要です。

 私自身この言葉を聴いたとき、かつて大きな病院、大学の救急センターなどにいて、脳外科医の頂点を目指したいと大それた夢を描いていた時のことを思い出しました。そして渡英して当時の最先端の脳外科・脳科学を学んで来ました。でもその頂上から、現在では、日常診療で見られる患者さんの笑顔に穏やかで可憐な花を感じています。ユングフラウヨッホの山頂とハイジのグリンデルバルトに、新田次郎氏も山登りにかける登山家の情熱と人生を感じていたのではないかと思います。