コラム - 院長より

 

Vol.61 2008/6/15

あおいくま

 先日、在宅診療で伺ったお宅で、いいお話を耳にしました。
患者さんは80代の女性ですが、そのお宅のテレビの上に、手書きで一言『あおいくま』と書かれた古い額が置いてありました。私は なんとなくこの言葉が気になり、「これは何か、いわれのある額ですか?」と伺いました。その方は、嬉しそうなお顔をされ、「これは、子供の頃、戦争で疎開するときに、母が私に書いてくれたものです。どんなに苦しいことがあっても、この言葉を忘れないですごしなさいって言いながら手渡してくれたの。母の遺言書になっちゃったけどね。空襲で亡くなっちゃったの。

 あおいくまの   あは、あせるな。 おは、おこるな。
いは、いばるな。 くは、くさるな。
まは、まけるな。

なんだって。 先生 簡単だけどこんな意味あるなんてわからないわよね。」

 なんと含蓄のある熊でしょう。我々も含めた今の世代の人に、これがどれだけ理解できるでしょうか? 町をわがもの顔で自転車で乗り回している若者。豊富な物質社会に生きていながら、弱々しい精神状態にある人々。こんな単純なことを忘れているのですね。

 私は何もなくても、純粋でたくましい人の息づかいを、その額の中に見たような気がしました。