コラム - 院長より

 

Vol.71 2009/4/15

めくじら

 講演会があり久しぶりに御茶ノ水に行きました。さわやかな季節になったこともあり、神田川をはさんだいくつかの大学の新しい学舎が朝日に光っており、もとのニコライ堂側にある30年ほど前にかよった予備校も、とても懐かしく感じました。でも今ではすっかり近代的な建物が多くなっており、昔のフォークソングにあった神田川という曲が何故かあう街というイメージはどこかにいっていました。

 過日知人から、浅草にある老舗の染物屋さんの手ぬぐいをいただきました。黒の地に、くじらの目だけをイメージした染抜きの手ぬぐいでした。
とてもシンプルな手ぬぐいでしたが、そこには「黒地に目だけを染め抜いて、鯨の接写とした発想が奇抜で新鮮。捕鯨に名高い熊野灘を洒落て、熊野染と称す。めくじらを立てちゃいけません.なんて、江戸の洒落言葉がきいています。」というメッセージが書かれていました。

 30年前に、大学受験のために浪人し東京に出てきて、まさにめくじらをたてて勉強していたのがこの地。あの頃のことが、ほろ苦い思い出としてよみがえります。そして今でも日々の外来や在宅診療の中で、イライラしたり、落ち込んだりして、昔と変わらずめくじらをたてている自分に気がつきました。この手ぬぐいをくださった方が、めくじらをたてない、簡単ですけど難しいですね、と言っておられましたが、本当に実感します。人は血管とともに老いるといわれるように、われわれが病気になるほとんどの原因は血圧があがって動脈硬化をおこすことに起因しています。血圧が上がる原因には、食生活も遺伝因子もあるでしょう。でも、単純に我々がイライラして、イライラし続けて、血圧を上げて病気になってしまうのかなと考えてしまいます。病は気から、あぁおこりやんす~、ここにも江戸の人たちの風流が聞こえるようです。

 浅草、神田、御茶ノ水は昔から東京の中でも下町、もっとも人情味のあふれる場所です。桜の季節が終わった今、間もなく三社祭が訪れ、初夏を迎えます。目にしみこむ木々の新鮮な青さを感じながら、我々ものびのびと、めくじらをたてずにいきたいものですね。いつも空から、この鯨さんがわれわれを大きな“眼”をして、のぞきこんでいるように感じます。