コラム - 院長より

 

Vol.106 2012/3/15

父の死  活き水

 父 工藤 至は、凛と澄んだ空のもと、諏訪湖に春の風が渡る、平成24年3月6日の夕刻 武士道に生きた89歳の生涯をとじました。1年半前に血液のがんである多発性骨髄腫であることがわかり、余命1~2年の告知の後、様々な治療によく頑張ってくれました。皆々様との良き御縁に恵まれ、実り多き日々を歩ませて頂き天寿を全うした父に代わり、心より感謝申し上げます。

 幼稚園の頃、ボール投げをしてくれた父。小学校の授業参観に来てくれた父。中学生の時、テストで100点をとった私を電話の向こうで褒めてくれた父。大学受験に失敗した時、下宿移動の際、膝を痛めながらも歩いて手伝ってくれた父。目を閉じるとたくさんの思い出が浮かびます。

 父は、剣道をもって子供たちの健全な成長を願い、地域活動を通じてささやかな社会への恩返しを考えていました。まじめに頑張れば何ごとも必ずできる、人は一人では生きていけない、困っている人には優しい手を差しのべる、全身全霊で周囲に尽くしていた父のそのような姿が私への教えでした。 普通の会社員でしたが、家族にも惜しみない愛情を注ぎ、本当に大切にしてくれました。

 生前、元気な頃の父と私は、ある約束をしていました。父に何かもしものことがあっても自分の患者を診ている現場を離れないこと。私はこの約束を守り、火葬の日も外来診療と在宅診療を東京で行っていました。3月3日に病床を訪れた時、舌の白苔が目立ち、私が舌の清拭をしました。苦いな!と言っていました。でも舌も唇も潤い気持ちがいいとも言ってくれました。翌日の3月4日に容態が急変しました。食事がとれなくなっていた父にとって、せめてもの活き水となってくれればよかったと思っています。最後の言葉は、意識がはっきりした瞬間の、「また来てくれや!!」でした。

 これからは、いつもいてくれたその場所では会えませんが、私のこの胸には父と綴ってきた沢山の思い出と、いつも見守り続けていてくれた優しい眼差しがおさめられています。

 「おやじ、ありがとう」皆さんから賜ったあたたかなお気持ちを伝え、今はただ静かに手を合わせます。

 父の姿 そのすべてが今の私を創ってくれました。