コラム - 院長より

 

Vol.113 2012/10

山中教授の受賞に想う

山中教授がノーベル医学賞を受賞された。心からお祝いを申し上げたいと思います。 山中先生の研究された再生医療は、近い未来において、医学・医療の内容を大きく変えるものだと思います。

1993年に私は、大人のパーキンソン病の患者に中絶胎児の脳を移植する手術法を学ぶために、イギリスのバーミンガム大学のER Hitchcock教授のもとに留学しました。この方法により、重度のパーキンソン病の患者さんが手術後半年で、エデインバラからバーミンガムまでの8時間の道のりを、ご自分で車を運転して大学病院の外来まで来られたのには、ほんとに驚き感激しました。しかし、この方法は、中絶とその胎児の脳を大人の脳に移植するという方法であったために、キリスト教のカソリックの方々、またグリーンピースの方々からは問題視され、バーミンガム大学附属病院の手術室が放火されたりで大変でした。おりしも当時日本では、まだ脳移植どころか、脳死の判定(人の死は脳死で決めるのか、心臓の停止で決めるのか)で大きく世論が動いていた時でしたので、残念ながら私が帰国後この方法を日本に広めることは不可能であり涙をのみました。

バーミンガムの研究室でteaをしていた時、パキスタンから来た友人の脳科学者が、興奮しながら一編の論文を持ってきて、一緒に熱く語ったことを覚えています。それはアメリカからの報告で、ネズミの細胞の中に、将来、すべての体の部位に進化する細胞が発見されたというものでした(当時この細胞は、万能細胞stem cellとか前駆細胞precaucer 細胞と呼ばれていました)。我々は倫理上、中絶胎児の脳の移植が問題であるならば、このような万能細胞を使って失われた機能を補う医学ができたらいいな!と話していました。

この論文を報告されたアメリカのグループに山中先生も当時留学されており、まさに今回の受賞のiP細胞につながる論文であったと思います。アメリカの学会で、一度だけですが山中先生と再生医療についてお話ししたことがありました。圧倒されるほどのオーラをお持ちでいらっしゃいました。

20年前、バーミンガムの地で友人たちと熱く語ったあの夢が、今、実現されつつあることに、他人事でない感激を感じるのと共に、山中先生とそのグループの方々の努力に心から敬意を表したいと思います。